法人化の適切なタイミングは?判断基準のキーワードは「事業拡大・所得・利益・売上」
法人化はいつから検討すればいい?

収入増や資金調達から法人化を検討しているけれど、法人化のタイミングを迷われている方は多いのではないでしょうか?
法人化するメリットの恩恵を最大限に活かすには、やはりベストなタイミングでの法人化が望まれます。法人化のタイミングは、「事業拡大」と「所得・利益・売上」の2つを軸に考えると良いでしょう。
目次
タイミング1 事業拡大のため、融資や資金調達が必要なとき
事業を拡大するために資金調達の必要が出てきたら、法人化を検討しても良いでしょう。 個人事業主よりも信用度が高い法人は、金融機関からの借入や外部からの出資がスムーズに運びます。また法人を対象とした助成金や補助金もあるので資金調達のルートが広がる他、株式会社であれば、新たな株式を発行して資本金を増やすといった方法も選択できるようになります。
ただし、法人化には設立費用や設立後の維持費がかかるので、資金繰りに余裕がない状況ならば時期を遅らせた方が賢明です。法人化した後も安定して事業が継続していけるのかをじっくりと検討して進めましょう。
タイミング2 所得・利益・売上から考える
法人化を図るもう一つの目安に、所得・利益・売上といった収支からの観点があります。この3つは一定の金額を超えると、個人事業主と法人で納める税金に差が出て損益が生じるからです。
<所得>年間所得が700万円を超えたとき
所得から見た法人化のボーダーラインは700万円といわれています。
年間所得が700~800万円の場合、所得に対してかかる税率は個人事業主では23%(所得税)、資本金1億円以下の法人では15%(法人税)です。
個人事業主にかかる所得税は所得に応じた累進課税であるのに対し、法人税は800万円以下なら15%、それを超える所得では23.2%の固定税率なので、所得が上がれば上がるほど個人事業主と法人の税額に差が出ます。
年収700万円を超えて、継続して一定の収入が出せる見通しが出たなら、法人化を検討する時期といえるでしょう。
<利益>利益が500万円を超えたとき
利益から税金面での損益を考えるなら500万円が分岐点となるでしょう。
個人事業主と法人では同じ500万円の利益であっても、税額を計算する際の控除額が違うため、課税の対象となる所得額が違ってきます。
法人では経営者の給与を経費として計上できるため、仮に500万円の利益があったとすると、500万円の利益から給与分を差し引いた金額に対しての課税となり、税負担が低くなる可能性があります。

利益500万円の場合の計算例
条件
- 個人事業主事業税:5%に固定
- 青色申告特別控除:複式簿記による65万円の特別控除に設定
- 法人成りした場合の利益:全額役員報酬として経費扱い
- 法人の規模:資本金1,000万円以下、従業員50人以下
個人事業主の場合
- 所得税:(500万円‐青色申告控除65万円‐基礎控除38万円)×20%‐427,500円=36万6,500円
- 事業税:(500万円‐290万円)×5%=10万5,000円
⇢ 合計:47万1,500円
法人化した場合
- 役員報酬の所得税:(500万円‐給与所得控除154万円)×20%‐427,500円=26万4,500円
- 法人住民税の均等割額:7万円
⇢ 合計:33万4,500円
以上の計算例からもわかるように、給与所得控除額が青色申告特別控除額より多ければ、税額は法人の方が少なくなります。
<売上>売上が1000万円を超える場合
法人化した1期目は設立2年前の売上が存在しないため、条件によっては最大2年間消費税が免除されることから、売上が1000万円を超えた場合も法人化のタイミングといえます。
ただし、令和5年10月1日に施行されたインボイス制度の影響から、今は必ずしも当てはまる目安ではなくなりました。インボイス制度が導入されたことで、売上からすれば消費税の免税事業者であっても、インボイス適用のためにあえて課税事業者となった場合には、簡易課税制度の利点はないので、売上1000万円は法人化の目安とはなりません。
なお消費税の免除を目的に法人化を考える場合には、免税措置が一過性のものであることを覚えておきましょう。法人化した後に安定して収益が出せるようであれば、消費税の免税を活用するタイミングで法人化を考えると良いでしょう。

消費税の免税制度を100%活用するなら、次の2点に留意しましょう。
- 資本金1,000万円以下、設立から半年間の売上が1,000万円未満、1期目が7ヶ月以下のいずれかを満たすこと。いずれか一つの条件を満たすことで免税措置が適用されます。
- 決算月を設立の前月にする。免税は2年ではなく2期分に適用されます。決算月を設立の前月にしておけば免税期間が2年間となり、フル活用できます。
例)
11月設立、12月決算:1期目(1カ月)+2期目(12カ月)=13カ月免税
11月設立、11月決算:1期目(12カ月)+2期目(12カ月)=24カ月免税
法人化は、単に節税や信用力の向上といったメリットだけでなく、将来的な事業の成長や安定経営を見据えて判断すべき重要なステップです。焦って進める必要はありませんが、「事業拡大のタイミング」や「所得・利益・売上の水準」といった客観的な基準をもとに、冷静に検討することが成功への近道です。あなたの事業にとってベストなタイミングを見極め、将来に向けてしっかりとした一歩を踏み出しましょう。
